新聞に掲載して頂きました

満身創痍、遊龍の松は踏ん張って600歳 京都・善峯寺

急な坂道を上って山門をくぐり、善峯(よしみね)寺が守る天然記念物に近づく。にわかに全(ぜん)貌(ぼう)がつかめない。いったい、どうなっているの?

思わずカシャッとしたが、長すぎてスマホ画面にうまく収まらない。中心から二手に分かれ、幹のように太い枝が西に約25メートル、北に12メートル伸びている。国の天然記念物「遊龍(ゆうりゅう)の松」。そう聞けば、地をはう龍に見えなくもない。

善峯寺(よしみねでら)によれば、江戸時代、徳川5代将軍綱吉の母・桂昌院が樹齢数百年の五葉松の盆栽を寄進、植えて育てたという説がある。合わせて推定樹齢600年以上というが、詳細は不明だ。

 緑の松葉が太陽の光を受けて輝く。「健康長寿」の木だと思ったら、違った。実は満身創痍(そうい)の状態だという。

 マツクイムシの被害で枝を切った。よく見ると、空洞もできている。木が腐った跡で、かつては、水がたまらないようにコンクリートが注入されたこともあった。

 様々に手がつくされたがよくならず、善峯寺は林造園建設工業に相談した。林吾一代表取締役は「しばらく何もしません。それでもいいですか」と請け負った。できるだけ自然の力にまかせるのがよいと思ったからだ。剪定(せんてい)は風通しをよくするために最小限にして、強い光で樹皮が乾燥しがちな南や西側の葉は多く残す。環境も最大限いかす。

 「境内は岩の上に少し土がのっているだけ。水は岩の隙間から排水されてたまらない。それが長生きの秘訣(ひけつ)だね」と林さん。管理を始めて数年後、「松が元気になった」という参拝客の声を聞いてうれしかった。

 参拝客には合格祈願の受験生も多い。阪神大震災で、高速道路が崩落、かろうじて落下を免れたバスの運転手が、善峯寺のお守りをもっていたと伝えられ、「おちないお守り」と話題になった。

 たくさんの支柱で支えられている老齢の松だが、その根は、境内を囲む石段の下からはみ出していた。生命を地下で支える根。大きな木の下の見えない部分の広がりが想像できる。時代を超えてめいっぱい生きている。